『陰摩羅鬼の瑕』のあらすじ&感想【京極夏彦】
京極夏彦の<百鬼夜行シリーズ>『陰摩羅鬼の瑕』が読みたくなって、再読しました。めちゃくちゃ時間かかりました…。さすが鈍器の如き分厚さ。持ちにくいったらない…けどその分厚さが癖になる…_(:3」∠)_
あ、タイトル読みづらいですが『おんもらきのきず』と読みます。
久しぶりの更新!極力ネタバレしないよう気をつけつつ、あらすじと感想で『陰摩羅鬼の瑕』をご紹介します。
あらすじ
白樺湖畔にそびえる「鳥の館」の主、由良昂允は、これまで4度にわたり新婚初夜か、その翌日に新婦の命を奪われてきた。そして5度目の婚礼を前に、婚約者・奥貫薫子の命を守るため、東京神田の「薔薇十字探偵社」の探偵・榎木津礼二郎に警護を依頼する。意気揚々と向かった探偵だが、旅先で発熱したため、急遽、小説家・関口巽が呼ばれる。昂允は、関口に非常に興味を持っていたため、2人を歓迎する。
一方で、過去3度「伯爵家花嫁連続殺人事件」を担当し、現在は東京に隠居する元刑事・伊庭銀四郎は、長野県警へと呼び出され、ひょんなことから知り合った中禅寺秋彦と共に、長野へと旅立つ。
探偵榎木津礼二郎は、関口と共に「鳥の館」に到着するやいなや、館の人々を見回すとこう叫んだ。
「おお、そこに人殺しが居る!」
(引用:wikipedia)
百鬼夜行シリーズ第8作目の『陰摩羅鬼の瑕』ですが、テーマは"死生観"。ミステリ―なんですが、謎やトリックなんかに重点を置くストーリーではないのかなと思います。
結構レビューなんかで「すぐに謎が解けてしまった」という感想も多くて、それがマイナスポイントという意見も。実際、謎と犯人は序盤ですぐに察しがつく方が多いと思います。鈍感な私も察しがつきましたので(笑)
が!最初にも書いたように、『陰摩羅鬼の瑕』のテーマは死生観。謎も、犯人も、今回のお話ではすぐにわかってしまっても良いんだと思います。その上でテーマの死生観について思考を巡らせたり、感じたり、そこを楽しめば良いんじゃないかと。
とは言っても、
「生と死」「存在と非存在」「在ることと生きていること」「常識とは」「家族の形とは」………
いやいやいや難しい難しい。儒教も絡んでくる『陰摩羅鬼の瑕』では、こんな哲学的な難問が常に付きまといながら物語が進んでいきます。頭が痛い(;´∀`)
常識って何?世間って何?え???
なんだか良くわからないけど、自分の中のいろんな境界線が揺らぐような感覚。
その原因はたぶん、この物語のキーパーソンである鳥の館の主、由良伯爵。
彼は幼いころ体が弱く、館から一歩も出ずに大人になったという特殊な環境で育った人。館の外の世界を知らずに育った彼は、幼い頃から広い館の中で、膨大な書籍から知識を得、思考して、"世界"を獲得しました。
そんな彼が見ている世界と、その他の人たちが見ている世界はきっと、大きく違うのだ、、、と読み進めるうちに強く感じるように。
そもそも、人はそれぞれに違った価値観や物の捉え方をするもので、同じ世界を見ている人なんてきっといないんでしょう。だから1つの物事に対してもいろんな意見があるわけで…上手く言えないけど。
でもどこか無意識に、隣にいる人が自分と同じ世界を見ているんだと思って生きているんです。私はなんとなく、そう思ってないと不安だなって思います。だから人は”違う”ことを攻撃したり、拒否したりするんじゃないかなぁ。
自分が常識だと思っていることが、他の誰かにとっては常識でもなんでもないかもしれないのに。それでも、これは常識だ、それを知らないのは無知だおかしい非常識だという認識をしてしまう、、、。
「それはあなたの世界の常識」でしょ?なんてことになったら…おぉ怖い( ;´Д`)由良伯爵を知るにつれて、そんなことを思いました。
この『陰摩羅鬼の瑕』で感じたのは、そんな自分が見ている、生きている”世界”が崩壊する時の衝撃。
謎がすぐに解けても、犯人がわかっていても、京極堂の憑き物落としによって全てが明るみに出たその時強い衝撃を受けたのは、”世界”の崩壊を物語の登場人物と一緒に追体験したような感覚に陥ったから。
わかっていたはずなのにすごく悲しい気持ちになりました。胸がずっしりとした悲しみで溢れていました。
いつもは難しい謎が解き明かされる京極堂の憑き物落としを楽しみにしているはずなのに、今回に限ってはどうか止めてほしい…そんな気持ちになるくらい。
そんな訳にはいかないと理解しつつも、どうにかならないのか、あの人を救ってあげられないのか、って作中で頑張る関口くんの思いと同調するみたいになっていました。
京極堂の「人は人を救えない」という発言がとても切なくって。
死の概念を、人間はいつ獲得するんでしょうか。
私もそうですが、たぶんほとんどの方が気が付いたら知っていたと思いますし、知っていて当然くらいの感覚ですよね。死んでいるのと生きているのは全然違います。
それは動物として本能的に知っているものなのか、それとも成長する過程で知る後天的なものなのか…この記事を書きながらもなんとなくグルグルそんなことを考えています。
自分はどうやって死を知ったんだろう…?
やっぱり難しい…とても難しいし長いんだけど『陰摩羅鬼の瑕』の寂しさ漂う、シリーズの中でもちょっと雰囲気の違う読了感はお気に入りでもあります。
それに、謎や犯人は察しがつくとしても、『陰摩羅鬼の瑕』の舞台となる鳥の館と呼ばれる洋館や、伯爵なんて呼ばれる人まで登場してミステリ―らしい雰囲気は満点。
序盤で超有名な某推理作家が登場したり、普段は鬱状態がとにかく酷くて心配になる関口くんが今回めっちゃ頑張っていたので(笑)
そんなところも含めて、『陰摩羅鬼の瑕』が好きです。
百鬼夜行シリーズを読みだしたあなたは、ぜひ順に読み進めて『陰摩羅鬼の瑕』も読んでみてくださいね\(^o^)/
…ふぅ。久しぶりに感想を書きましたが、やっぱり思った事、感じた事を言葉や文章にして誰かに伝えるって難しいですね。なかなかうまくいかない(;^ω^)子どもの頃から読書感想文が苦手で適当にしかやってこなかったのちょっと後悔(笑)